ロマネスクやゴシック時代の聖堂を訪れ、内外の柱頭や軒下でよく出会うのが葉っぱに覆われた顔、葉や蔓を吐き出したり一体化している彫刻や浮彫である。彼らは「グリーンマン」(葉人間)と呼ばれ生まれたときには何らかのメッセージを持っていたらしいが長い年月のうちに忘れられていった。彼らの生い立ちや生活について興味をもった人がいて調べた結果、ある程度わかってきた。
 「グリーンマン」(そう便宜的に名付けられた)は非キリスト教由来、ヨーロッパ土着のケルト*の樹木信仰(樹木神ケルヌーノス)、あるいは古代ローマのシルヴァヌスの伝統といわれる。本来、シルヴァヌスは「グリーンマン」のような形を与えられていなかったが森の神であることからケルヌーノスと同一視されてこのように表現されるようになった。ケルヌーノス由来の葉人間は口から蔓がのび、シルヴァヌス由来のグリーンマンは顔が葉に覆われていて、年代のわかる最古の例はパリのサン・ドニ修道院聖堂にあるという。もう一つ大きなグループがあり、花や果物のタイプがある。人と植物が融合したのがグリーンマンであるが、他にも動物と植物が融合した「グリーンアニマル」も多い。
 彼らの役目は今も謎であるが、悪魔・悪霊などの侵入から聖堂を守る役目をしているらしい。このような聖堂の守護役はグリーンマンの他にガーゴイル(雨樋)、人頭、聖書に記述されていない様々な動物などがある。

*: バルトルシャイティスによるとオリエントからケルトに持ち込まれたコプト織物にグリーンマンが見られる(幻想の中世I、p.217)


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