WINDS CAFE 12当日のプログラム

以下の文章は当日配布した資料です。

ベートーヴェン プルースト ルドン
 プルースト全集が刊行され(築摩書房、1997年現在刊行中)、その中の月報に若桑みどりのエッセーがある(全集第9巻、月報14)。「私が築摩書房の編集部から、プルーストと美術についての「エセー」を依頼されたときに、私の念頭に浮かんだのは、フェルメールとプルーストについてのあいまいな想念であった。……「失われた時」に、実際にどのような種類の美術が、何回記述されているかを数えてみることを思い立った。……計二日間でこの「計算」をするという信じられない暴挙の結果……」数えられたのは画家ではフェルメールが10回登場して最多であった。ルドンはこのリストには出ていないが、今回読み返したところ1ヶ所言及している部分があった(ということは数えちがいをしていたことになる。二日間では無理もない)。
 「(バルベックの教会玄関−架空の作品−について)あの正面の壁を彫刻した人間は大した奴さんですよ、深い思想をもっていた男ですよ、あなたが一番賛美していらっしゃるいまの人たちにだって負けはしません。……聖母被昇天祭のミサの言葉の、ある箇所を解釈したものなどありますが、その巧妙なことはルドンでもあそこまでは行けません」(花咲く乙女たちのかげにU、全集p202、画家エルスチールがバルベックの教会玄関に失望して「私」対して説き明した部分)。
 プルーストとルドンに共通するものに音楽との関わりがある。ルドンの「音楽は夜の芸術だ。夢の芸術。魂が閉じこもる時。音楽は青春時代に我々の魂に形をつける。後になっても、我々は最初の感動を忠実に守っている。音楽は、あたかも復活のように、それを更新する」(私自身に)は、そのままプルーストの作品にもあてはまる。精神に直接働きかけるのは音楽でありその直接性を他の分野の芸術は羨んだ。「失われた時」もルドンの絵も一種の音楽状態を文字あるいは絵で再現しようとした作品であった。

28. Dec. 1997.


第1部 ベートーヴェン2 晩年の弦楽四重奏曲を中心に
第2部 ルドンをめぐる音楽
展示作品 当日展示された作品
資料 展示資料・参考資料

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