連作版画集

「黒は大地を象徴する色である。それは、無の色である。しかし大地は、暗黒の地中から、植物をはじめ、あらゆる生命体を生んでいく。すなわち黒は、物質界の根元を象徴する色であり、産み出す力、母性を象徴する色なのである」
馬杉宗夫、「聖母子」彫刻と「黒い聖母」の謎、(『ロマネスクの美術』、p233、八坂書房)
 ルドンの連作版画作品はEvely processにより複製された銅版画『悪の華』を含めて13の版画集がある。この他に未完に終わったマラルメの『骰子一擲』豪華本のための挿画集、木版画で没後ヴォラールにより刊行された『聖アントワーヌの誘惑』があった。

タイトル 収録作品数 部数 出版年
夢の中で
Dans le Reve
扉絵と10点の石版画 251879
エドガー・ポーに
A Edoger Poe
扉絵と6点の石版画 50 1882
起源
Les Origines
表紙と8点の石版画 25 1883
ゴヤ讃
Homage a Goya
6点の石版画 50(Ver.1)
25(Ver.2)
1885

La Nuit
6点の石版画501886
陪審員
Le Jure
7点の石版画 100(冊子)
20(別刷)
1887
聖アントワーヌの誘惑(第1集)
La Tentation de Saint-Antoine
表紙と10点の石版画 60 1888
ギュスタヴ・フローベルに(聖アントワーヌの誘惑第2集)
A Gustave Flaubert
扉絵と6点の石版画 601889
悪の華
Les Fleurs du Mal
Evely方式による素描の銅版転写
表紙と章末挿絵を含む9点
43
100
1890
1923
夢想 我が友アルマン・クラヴォーの想い出に
Songes A la memoire de mon ami Armand Clavaud
6点の石版画 80 1891
聖アントワーヌの誘惑(第3集)
La Tentation de Saint-Anotine
扉絵を含む24点の石版画 50
100
1895
1896
幽霊屋敷
La Maison hantee
扉絵と6点の石版画 60 1896
聖ヨハネ黙示録
Apocalypse de Saint-Jean
表紙と12点の石版画 100 1899

画像の出典について

ルドンの版画作品画像は全て次の版画集を使用している。

ODILON REDON OEUVRE GRAPHIQUE COMPLET I & II
Phototypie: W. Scherjon, Utrecht, Arts de Bois, Den Haag, 1913.(1)

 ルドンの生前にオランダの出版社から刊行された版画全集は192点の石版画及び銅版画を含み、連作と単品版画作品の殆ど全てを網羅している。原寸大のコロタイプ印刷による複製は(もちろん銀塩とカーボンブラックというマテリアルの違いにより「黒」の深みに本質的な差はあるが)現在までに出版されたルドンの版画作品集の中で最も高いクオリティを持つ。この全集の刊行に際してルドン自身の次のような言葉が推薦文がのこされている。
 この辺でこの文をとめて、私のカタログの序文としたい。ハーグのアルツ・エ・デボア社は、私の版画全集を刊行して深い喜びを私に与えてくれる。それは多種多様に生まれたものの集成である。その多くは芽生えであり、その樹液の次の物は、ここにはない素描として花を開いた。よくなって花を開いたといえよう。石版に移す前に、必然に生まれる素描である。このようにして、それぞれ世の中に動いている絵が500点ぐらいある。私のリトグラフを愛してくださる方々に、私は素描も愛するようにお願いしたい。呼吸で飛び散るような軽い材料で描かれた木炭画は、感情の自然な表現にふさわしい即座の懐胎を許してくれる。このシリーズをめくって見る人は、いかにミュンヘン産の美しい石が、石版画の表情に富んだ輝きを多数化して提供してくれる能力があるか、夢中になって私が試みたのを知って頂きたいと思う。どれかそれを語る版があって、その版画効果が他の版の理解にも役立てばいいと思うのである。
 この果実の全部を公衆の前にひろげる時、年により日によって出来不出来があることを謙虚に認める必要がある。

『ルドン 私自身に』(2)より



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