内部空間の比較 2
二つのオットー朝空間

 ヒルデスハイムのザンクト・ミヒャエル教会とニーヴェルのサン・ジェルトリュード教会はほぼ同時期に建てられたにも関わらず著しい対照を示し、対立作品と位置づけられている。ブリュッセルから30分ほどの小さな町にあるサン・ジェルトリュードを訪れ、その後ヒルデスハイムを訪れることができたので両者の聖堂の差異が印象的であった。

Sankt Michaeliskirche, Hildesheim Collegiale Sainte Gertrude, Nivelles

 外観の印象がまず対照的である。東西にアプシスを有する点はどちらも共通している。西側にヴェストヴェルク(12世紀末、それ以前も同様であったと考えられる)が建つサン・ジェルトリュードは西に偏った比重を持つ。それに対してザンクト・ミヒャエルでは(厳密には相似ではないにもかかわらず)等価な形態の交差塔と脇塔のおかげで東西の相似形が際だっている。聖堂を構成する各ユニット(身廊、袖廊、アプシス)はサン・ジェルトリュードではそれぞれの独立性が高い(袖廊が身廊より低いため個性の異なるユニットを一つにまとめているようにみえる)のに対しザンクト・ミヒャエルでは統一感が強い。

オットー朝二聖堂の比較
聖堂 Sankt Michael Sainte Gertrude
プラン
横断面
年代 1015−10331046
由来 ベルンヴァルトが自らの墓所として設立メロヴィング時代の聖堂を継承
立地 丘の上窪地
構成 二重内陣、二重袖廊二重内陣、二重袖廊
プラン対称性 高い低い
内部身廊 交替柱列ピア単一
身廊立面 アーケード+クリアストーリー アーケード+クリアストーリー
袖廊 交差部と等高 交差部より低い


二聖堂の内部空間、共に西端から東内陣をみる

ザンクト・ミヒャエルとサン・ジェルトリュード投影図、身廊に対する各ユニットの高さに注目

 内部に入ると、サン・ジェルトリュードの身廊はカロリング朝以来のピア柱列であるがザンクト・ミヒャエルではピア−円柱−円柱−ピアの交替柱列を採用しているので前者が重厚感を持つのに対して後者はリズミカルである。交差部分は分離型交差方式を採用し、なおかつトリビューンつき袖廊が東西相似形であるのでザンクト・ミヒャエルでの空間統一性に寄与している。プランに比して高さがあるのがザンクト・ミヒャエルで、天井の高い分開放感がある。実際に訪れてみると面積のうえでは小さいザンクト・ミヒャエルの内部のほうがすっきりした印象を感じた。

 建設は同時期であってもサン・ジェルトリュードはカロリングの古い様式を引き継いだのに対してザンクト・ミヒャエルでは当時として革新的な要素を採り入れたのが成功して全く異なる内部空間(と外観)が誕生した。ニーヴェルはフランク王領の中心に位置することからカロリングの伝統が強かったのに対して百年前までは異教の地であったザクセンは新たな伝統をつくる創造性があったことと設計したベルンヴァルトの「天使の神殿」を実現するための実験的精神が創造性に寄与できたと思える。


     

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